ゴーイングメリー号の厨房で、スルスルとジャガイモの皮を
剥き続ける男が一人。その名前はサンジ。
この船のコックさん兼戦闘員である。
船は以前チョッパーのいた冬島とはまったく正反対の
夏島とも言うべきアラバスタに近付いている。
乗り組み員は冬島出身のチョッパーをはじめとして
冬島で慣らされた感覚から今だ、逃れられず
少々夏バテ気味である。
この船自慢のコックであるサンジは、そんな船員達の
体調を気づかり、若干1名の食力旺盛者以外の
特にデリケートなレディ達の為に今晩のディナー用に
スープの下ごしらえをしていたのだ。
バタン!
急にドアが開き、ビビにささえられてナミが入室してきた。
「サンジさん、お願い。何かナミさんに冷たいものを。」
「ハイハイ♪。ナミさん、何か御希望は?アイスティー?
グリーンティー?ウーロンティーもありますよ。
お望みなら、運動後用に作った蜂蜜入りのレモネードも、、、。」
「う〜ん、少し甘いものが欲しいかも、、、。」
「では、この間頂いたミカンで作っておいた特製のドリンクを
御用意しますよ。あ、もちろんビビちゃんも♪何がお好み?」
「あ、私はレモネードを」
サンジの手際はさすがによく、あっという間にドリンクが用意され、
軽いクッキーなども用意された。
ビビはレモネードを飲みながら、いくつかクッキーを口にしていたが
ナミはその気力もないらしく、でも美味しそうにミカンジュースを
少し時間はかかったがいつの間にか飲み干していた。
「ナミさん?食欲はあまりないようだけど、夕食はどうします?」
「無理はしない方がいいとは思うけど、少しは口にしないと、、、。」
ビビも心配そうだ。
「ん〜あんまり食欲ないのよね。」
「わかりました。そんな時にちょうどいいメニューを今日は
用意してますから。それまで部屋で休んだ方が。」
「それがね〜ダメなのよ〜。ゾロは方向音痴で船の向きが変わっても
気が付かないし、ルフィも冒険捜してウキウキだしね」
「なら、私が外は見ているわ。少しでも以上があったらすぐに知らせるし、トニ
君や
ウソップさんならまだそんなにバテてないみたいだから、つきあってもらう
わ」
そうだな、それがいい。ナミさんは病み上がりで少し動きすぎたんだ。
夕飯になったら声をかけるから。」
ミは少し考えていた様だが、身体の疲労感には勝てないらしく、
ビにいくつかのアドバイスをすると、寝室に戻って行った。
ナミさん、、、大丈夫かしら?」
なぁに、チョッパーも病み上がりの運動で軽い夏バテだって言ってたし、心配な
だろう。それじゃあ、ビビちゃん外は頼むな。何かあったらすぐに呼んでく
れ」
ナミは自室に帰ると履いていたミュールを脱ぐのももどかしいくらいの
勢いで、ベットに倒れ込んだ。
重い身体を動かして、何とか仰向けになると天井を見つめながら
いつの間にか、眠りの闇に落ちて行った。
『ナミ、、、ナミ、、、』
懐かしい声が聞こえる。
『ナミ、、、大丈夫!?、、、ねえ、ナミ!』
、、、だ、、、れ?
『ほら、静かにしないとナミがゆっくりねむれないでしょうが?』
どこ、、、かで、、、聞いた事がある?
『ナミ、、、心配しないで、ゆっくり眠って、明日は元気な顔見せて』
もしかして、、、ベル、、、メールさん?ノ、、、ジコ?
『眠ったみたいだね、さぁゆっくり、一人にさせてあげようね?』
ダ、、、メ、、、一人に、、、しないで!
優しい手が、額の汗を拭い、新しいタオルと交換してくれている。
おねがい、、、ひ、、とり、、、ひとりにしないで!
傍にいて、ベルメールさん!ノジコ!!
「ナミさん!ナミさん!?」
ぼんやりと目を開けると、すでに外は暗くなっていた。
ゆっくりと視線を動かすと、薄やみの中にサンジの顔があった。
眠っていた私に気を使って、明かりは付けなかったのだろう。
月明かりの中、サンジは私の額の汗を優しく拭っている所だった。
「サンジ、、、君?」
「ああ、ひどくうなされていたけど、、、」
「昔のね、夢を見たの。ベルメールさんがいて、ノジコがいて。
私が風を引いて寝込んだ時、二人が気づかって一人で眠らせてくれたんだけど
それがどこか寂しくて、、、。」
サンジは黙ってナミの話を聞いていた。
「あの時、二人が作ってくれたスープ。お世辞にもすごく美味しい訳じゃないけど
二人の暖かい気持ちで溢れてて、美味しかったんだ。あの冷たいスープ」
「ナミさん、、、。食欲は?」
それまで黙っていたサンジが唐突に切り出した。
「え?うん、、、少しはお腹空いた、、、かな?」
「それじゃあ、少し待っていて。」
サンジが次にドアを開けた時持ってきたトレーの上には
スープ皿が乗っていたが、湯気はない。
「さあ、どうぞナミさん。」
そう言って、スープスプーンと一緒に渡された料理。
「サンジくん、、、もしかしてこれって?」
ゆっくりと、記憶を辿る様にナミはスープに口を付けた。
ナミの顔が一気にほころぶ。
「そう、ノジコさんに教えてもらった。ナミは夏場に調子が悪くなると
いつもこのヴィシソワーズが、大好きだったって。」
「ありがとう、、、サンジ君」
スープをペロリと飲み干したナミはサンジに問いかけた。
「ねえ、、、こんな時、私がもうひとつ好きだった事、、、聞いてる?」
少し顔を赤らめながら、ナミは毛布を口元まで引き上げた。
「聞いてるよ、、、今夜はナミさんが眠るまでお話をしていてあげるから、安心して眠って、明日には元気な顔を見せて欲しいな。」
「、、、うん、、、」
サンジは明かりを少し落とすと、ナミのベットサイドの床に
腰を下ろした。
「さて、、、何をお話しましょうかね、お姫さま?」
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