第3話 デビュー!デビュー!

セントレミー学園初等部の放課後。決死の覚悟のみどりと、それに呆れ顔の俊夫が優を訪ねてきたが、当の本人は屋上でぼんやりと空を眺めていた。そばでポジとネガがコンパクトと携帯を広げ、新しい呪文の解読に励んでいる。

「これそっちの字と同じじゃない?」
「ん〜〜いや!似てるけど、違うと思うぞ」
「そうかしら?優はどう思う?、、、優?」

2匹の問いかけに優はすぐに反応できなかった。もうすぐ夏休みも近いどこまでも青い空を見つめていると、思いがけず手にしてしまった魔法の力の事を考えてしまう。

「え?なに?」
「あ〜もう止めた!こっちが頑張ってるのに、当の本人がこれじゃあな!」
「ごめん、なんか考えちゃった」
「この間の事?」
「うん、、、魔法使うのは楽しいけど、テレビに出るのはもう嫌だな、、、」

『マミ』として存在を許してしまったもう一人の自分、あの1回限りのテレビ出演に対する世間の反応。そして何よりもその姿に惹かれていく俊夫。優として大好きな俊夫に喜んでもらいたい反面、もう一人の自分に対する嫉妬心はすでに気付いていた。

あのテレビ出演から、早くも1週間がたつ。その間、小学生の優の耳にもあのパルテノンプルの立花がマミを捜していると言う情報は聞こえてくる。マミは一躍時の人となり、テレビで、雑誌でわずかに残された映像が繰り返し流されている。何よりもネット上で憶測や、勝手にマミを名乗る偽者まで現れたが、結局誰も本人にたどり着けていないのが現状だと、俊夫は毎日遅くまでパソコンにかじり付きながら、優にも話してくれている。

パルテノンプロでは、連日会議が開かれているが、一向に進まない捜索活動に立花の機嫌は日に日に悪くなっていくばかりだった。あまりにも情報が少なすぎる。なにしろ彼女はたった1曲、しかも肝心の歌のシーン以外の画像しかなく、本名や連絡先など何も聞いてはいなかったのだ。自らの失態がさらに立花を熱くさせていた。こうして今日の会議も、何度目かの雑誌とパルテノンプロのHP上での呼び掛けを続ける事しか、決まらなかった。

「何が何でも彼女を探し出すんだ!彼女なくしてこの会社の明日はないと思え!!」

立花の怒声に押されて、今日も木所を初めてとしたスタッフ達が会議室から飛び出していった。

そこに現れためぐみは、マミに固執する慎悟のマミに対する執着心が許せなかった。今まではパルテノンプロの最高の商品として扱われ、その待遇を当然に受け止めていためぐみとしては当然の事でもある。その上、今後社内で名前を呼ぶなともきつく言われてしまった。めぐみの忍耐ももはやこれまでだった。今後の自分の芸能人としての誇りをかけて、マネージャーの交換まで言い出してしまった。木所は飲みかけの胃薬を吹き出し、戸惑う立花であったが、この時救いの声がかかった。

立花の秘書のパソコンにメールが1件届いたのだ。それは今までになかった具体的な実在の地名で、2度もマミに会った事があると言う少年からのメールだった。それは当然俊夫である。今まで余りにも有力な情報がなかった為、すぐに自分のデスクに転送させると内容をじっくりと考え始めた。この大伴俊夫と言う少年は2度マミに会っている。(俊夫としては二人の思い出にしたい部分があるので、全てを話した訳ではないのだけど)しかもその会った日にちは、まさにクリィーミーマミがあの1度きりのステージに立った日でもある。これはこの大伴少年に会ってみる価値はある!立花の行動は早く、大伴少年の携帯に連絡を取り、最初に出会ったと言うクレープ屋に足を運ぶ事にした。

「それであの放送の前に、この場所で彼女に出会ったっていうんだね?」
「ええ、そうです。」
「そして2度目は公園で、、か。」
ひたすらに優の姿を捜し続けるみどりを差し置き、立花と俊夫の会話は熱くなる。
「で、俺思うんですけど、彼女最近この辺に引っ越して来たんじゃないかな?」
「それなら、もっと他にも彼女を見かけた人がいそうなものだが、、、その時何か気付いた事はないか?」

その頃優は、店内に続くドアを開けてそっと覗いていた。
「優?宿題終わったの?外に俊夫君来てるわよ」
「やった〜わかんない所、教えてもらお、、、」
外ヘと続くドアを開けた時、優は思わず絶句した。
優の動揺に気が着いたのか、ポジとネガもドアを透視してみると、そこには立花の姿があった。優は完全に立ちすくんでしまっている。

「平気よ。変身してないんだから、あなたがマミだなんてわからないわよ」

その姿に見兼ねてポジがフォローするものの、優はすんなりと俊夫に会いに出られなかった。ネガも優の様子に声をかけられなかった。

「あの、すみません」

優が行動を決めかねている時、ふいに立花が店内に入って来た。更に顔を曇らせてしまう優だが、立花がそれに気が着くはずはない。優の両親にマミの写真を見せ始めてしまった。その状況に耐えかねた優は外に飛び出して行った。

「俊夫!ちょっと、、、みどりちゃんごめんね、また今度ね!」
「お、おい優!やめれって!!」

まだ立花との会話に未練がある俊夫だったが、優の思いつめたような表情に素直に優の部屋まで着いて来た。

「どうしてもあの人のプロダクションからデビューさせたいんだと」

窓際に腰をかけた俊夫は、先程立花と交わした会話を優に伝えた。優はベットに腰をかけ、猫の振りをするポジとネガをそっと撫でた。

「するかしら?」
「して欲しいよな、、、。この前はテレビだったけど、生のステージも観てみたいし。なんか俺、ずっと前から知ってるような気がするんだ、、、」

ネガは陶然だろうと憤慨したが、意外にもポジではなく優の手によってやんわりと制止された。

「俊夫はそんなにマミを気にいっちゃったの?」
「ああ!彼女が嫌がるようなら署名運動をして、これだけファンがいます!って証明しようって、ネット上で話も出てるんだ。俺だって何だってするぞ!でも、、、見つからん事にはな、、、」
「そうだね」

俊夫のマミに対する熱意に大きな戸惑いと、不安を隠せない優だったがそれすらも今の俊夫には気がつく事は出来なかった。

「どっこにいんのかなぁ?あーぁ、、、」

翌日、優は学校が終わるといつも学校帰りに通る空き地で、俊夫を密かに待っていた。それは優のまた、マミの俊夫への最後のメッセージを伝えるつもりだった。

「大丈夫かよ?」
「俊夫にとってはマミは絶対だからね。マミがデビューしないって言えば、分かってくれると思うんだ!」
「そううまくいくのかよ?」

不安な表情な2匹だが、優はコンパクトに手をかけた。

俊夫は相変わらず優の名前を連呼するみどりに、少々辟易し頭の中ではマミの事を考えつつ下校していたが、あまりにも唐突に彼女は目の前に現れた。それは間違いなくマミ、その人だった。

「捜してたのよ」

ごくんと唾を飲み込むと、俊夫は震えを押し殺しながら声を絞り出した。

「僕を、、ですか?」
「ええ、お話したい事が」

マミが本題を切り出そうとしたその時、1台の車が二人の間を裂くように飛び出して、瞬く間にマミを車に乗せ走り去ってしまった。むろん、立花である。俊夫もあまりの急展開に反応できず、小さくなって行く車に向かって、憤慨する事しかできなかった。

なんとか逃げようとするマミをなだめながら、立花は馴染みの喫茶店に着いた。

「日本、いや世界が君のデビューを待っている」
「いや」
「今晩の番組でちょうどうちのタレントが出る枠がある。そこで歌ってもらう」
「嫌だって言ってるでしょ!私の話も少しは聞いてよ」
「聞いてるとも。じゃ、行こうか?」
「行くってどこに?」
「局だよ。さっきから言ってるだろ?」

どこまでも平行線を保ってしまう二人だが、どちらの立場としても譲れないのである。それは半ば成りゆきで連れてこられてしまったテレビ局でも同じだった。頑なに出演を拒否し続けるマミに、プロデューサーは困惑の色を隠せなかった。

「8時だなんて怒られちゃう!」
「なんでそんなに厳しい家なんだ!?」
「極めて普通だけど?」

マミは優で、もちろん小学生である。8時なら小学生が帰るには遅い時間ではあるが、どう見ても小学生には見えないマミがそれを主張する事は出来ないし、立花に張り付かれている為優に戻る事もできない。

「仕方ない」
「やっと分かってくれたのね」
「家まで送る!だからねぇ〜お願い!今回だけ!歌って〜」
「ハッキリ言って私あなたとは無関係よ!歌わなきゃならない理由は、なにもないわ!」
「もちろんだ。だからコレ僕の名刺ね。会社はこれ、携帯はこの番号で、アドレスはこれ。ね?これで知り合いって事で、今回だけ!もうテレビに出ろなんて言わないから、お願い!」
「本当にこれっきり?」

あまりのしつこさにマミは正直、呆れていた。この状況から逃げ出すには、どうすれば良いんだろう?立花は今回きりと言っているし、歌わなければ8時どころか9時になっても帰れないかも知れない。俊夫にはまた改めて話すとして、もう変身しなければいいんだから。そんな考えが過り、首を縦横に振り続ける立花に承諾してしまった。

「じゃ、電話してくる」

マミは仕方なく母の携帯に連絡を入れに、その場を離れた。もし、ポジとネガがその場にいたら、立花の悪巧みとも大人の御都合主義とも言うべき言葉を、聞き逃す事はなかっただろう。

「いいのか?あんな事言っちゃって?」

不安げなプロデューサーに立花は、事もなげに言ってのけた。

「え?僕何か言いましたっけ?」

その頃マミは、この場合優と言うべきか?母の携帯に連絡を入れ、やはり心配する両親に必死に言い訳をするはめになってしまった。その必死な様子を、ポジとネガは電波を通して見ていた。

「俊夫君とこじゃないね」
「電波通してちらっと見れたもんな」
「一人で大丈夫かしら?」
「行こう!」
「どうやって!?」
「テレポート、、、できるか?地球で?」
「さあ?」

フェザースターとは違うこの環境。ポジもネガも四苦八苦していた。その頃マミは電話を切ると独りため息を着いていた。

「あ〜ぁだんだん悪い子になっちゃうな。電話代もかかるし、、、なんとかしてよ」

立花の方も思いがけず、いや半ば予想はしていたのだが、今日のテレビ出演をドタキャンされた綾瀬めぐみの来訪に戸惑いが隠せるはずがなかった。立花の説明は芸能プロの戦略としては、正論であるかも知れない。だけど、、、今までの私はなに?何よりも私を大切にしてくれていた慎悟が、今クリィミーマミと言う現時点で得体の知れない少女に心を奪われている。それが何より彼女のプライドを傷つけていたが、今の立花には気が着く余裕はなかった。

そんな中、番組はスタートしマミが紹介された。あまり気乗りしない為、足が進まないマミの背中を押す手があった。むろん綾瀬めぐみである。慌てるスタッフを無視して、マイペースでトークを始めためぐみだが、司会者もマミに話を向けづらく困惑していた。

「お恥ずかしい話なんですが、以前マミちゃんに助けてもらって、今回緊張してるマミちゃんのお手伝いができればと思ったんです。」

いつの間にか、めぐみのペースで話が進んで行く。マミとしてはこれが最後のつもりだし、余計な事は口にしたくない事もあったが、話はどんどんデビューに向かって進んで行く。デビューを否定しても冗談で流されてしまう。心底困惑していた。

その頃、全国のテレビの前でマミに魅せられた俊夫を初めとしたファンが憤慨していた。
マミがゲストのはずが、全くマミが口を開く隙がないのである。もちろん、めぐみの策略でもあるのだが、思わぬ問いかけについ口を滑らせてしまった。

「嫌われちゃったかしら?あたくしとのお仕事は嫌?」
「そんな事は、、、」

司会者はこの言葉を待っていたのである。早速マミの歌のコーナーに移行してしまった。

曲はもちろん前回と同じ。ただ今回は同じ魔法のマイクを手にした瞬間、前回はなかった考えてもいなかった歌詞が、不思議と溢れ出て来た。戸惑いながらも歌詞はその後も淀みなく流れ出し、スタッフが危惧していたマシントラブルも起こらなかった。

めぐみがあくまでも邪魔するつもりで乱入した番組だったが、それによってマミのデビューがほぼ確実になったと聞かされ、放心状態になった時再び奇妙な現象は起こった。今回のマミのステージにはライティングの他に特別に凝ったものではなかったが、明らかにライトのせいではないきらめきが彼女を覆ったのである。

「謎に包まれた美少女、クリィミーマミ!パルテノンプロから堂々のデビュー忙しくなるぞ」

立花のつぶやきはすでにめぐみの耳には届いていなかった。そして、曲が終わった後のマミのつぶやきも誰の耳にも届く事はなかった。

「あ〜ぁ、えらい事になっちゃったな」

放送が終わると同時に、マミはスタジオの外に駆け出した。もちろん立花と、マミのマネージャーになった木所が後を追った。

「頼む!携帯を教えてくれないか!」
「ダメだったら!」
「じゃあ家まで送る!」
「だからダメだって言ってるでしょ!これっきりなんだから!」
「そうは言っても、今日のギャラもあるし」
「そんなのいらないったら!分かったわ、明日にでも連絡するから!」
「本当だな!?」
「それが嫌なら、もうぜっっっっったい!!連絡しないから!今日は帰らせて!!」

こんな会話をくり返しながら奇妙な追いかけっこは続き、隙を見て優に戻ると速効で家に戻るのだった。

帰宅後、自室のベットに倒れ込んだ優は、ポジとネガに全ての事を話した。

「きっと俊夫も期待してるよね?それに連絡するとは言ったけど、電話代だって私のお小遣いじゃ持たないし、番号とかアドレスとかばれたら大変だよ、、、」

優の帰宅を待て話を聞きながら、再びコンパクトと携帯をいじっていたネガはある事に気が着いた。

「なあ、これ変身してる時はこの携帯ってのはコンパクトと一体になるだろ?そうすればりっぱな魔法アイテムだし、携帯料金ってのもかからなく出来たぞ!それに」

ポジがどこからかケーブルのようなものを取り出した。

「私達もアレから色々と考えて、これがある事を思い出したの。これをこうして、、、コンパクトに繋げば魔法の力でどうやってもこの携帯の番号やアドレスは向こうにはわからないようにできるわ」
「そんな事できるの?そうしたら向こうから正体ばれずに、俊夫の為にも少しはお仕事できるかな?」

優は今日の出来事、予想される明日の俊夫の反応に思いをはせたが、さすがに疲れがたまって来たのか、いつの間にか寝息が聞こえる。

「それで、こっちをさ、、、って寝てるのかよ!?」
「まぁ、今日は疲れてるんでしょうし、寝かせてあげましょうよ?説明は明日でも逃げないわ」

こうして、優のそしてマミの二重生活は幕を開け、その第1日目は終わったのだった。