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明け方からすでに起きていた優は、自分の足下のバスケットの中で眠る2匹と、コンパクトと携帯を何度も確認していた。携帯は昨夜優が元の姿に戻った時再び二つに別れ、ポジとネガ曰く、優の携帯はピノピノの力によって連動され、優が変身している間はコンパクトの機能は携帯に引き継がれているらしいのだが、まだ詳細は謎のままだ。 優の気配に気が付いたのか、ポジがわずかに顔をあげるが彼女達にしても、突然慣れない環境に飛び込んでしまった訳で、その疲れのせいか再び夢の世界の住人になってしまった。 そっと階段を降り、リビングを覗くと哲夫となつめは開店前のひとときをコーヒーの香りで楽しんでいた。そんな両親に優にしては遠慮がちに声をかけた。 「いってきま〜す、、。」 こんな早朝から出かける娘に疑問も抱く両親だったが、普段から少々元気のよすぎる娘だ。そこはそれで、反応はのどかなものだった。 「ま、日曜日にはよく遊べだ。」 いまだ眠る2匹や両親が全く気にならないと言えば嘘になるが、今の優はそれ所ではない。2匹の姿や変化していたはずの携帯を見ても、昨日の変身は現実の事だったのか?その姿は人の目にどう写るのか?こんなに人の目が気になるのは初めてな優だった。 公園の木陰に潜り込むと優は早速コンパクトと携帯を取り出し、今度は待ち受けの俊夫を気にする間もなく、ステッキを取り出した。 「キャノ?」 いまだに少々不思議感が優の心には広がっていた。しかし、クリィミーステッキは昨夜と同じように優の手にすんなりと治まった。始めて優はハッキリと実感した。私は魔法の力を手に入れてしまったようだ。この力で何ができるのか?それはまだわからない。 「パンプルピンプルパムポップン」 光が辺を満たす。その光の中心にいる優の姿は昨夜と同じように、またそれ以上にもう一人の優の魅力を最大限に引き出せる衣装にも変わっていた。 朝日に光る池をのぞき、前髪を少し直し、優はやっと微笑んだ。 その頃、クレープ屋CREAMYでは哲夫となつめが開店準備に追われていた。 「目が覚めたなら何で着いていかなかったんだよ?」 ネガの気が付かないうちにポジは気が付いたようだ。もう一人の優が開店前の店内を、携帯を片手に覗き込んでいる事を。 「あの〜」 当然気が付くはずもなく、なつめは店の現状を告げた。優はその反応が面白かったらしく 「お父さん!」 狼狽するなつめに余裕の表情の優。 「いえ、あの、おはようございます!」 事態が読めないながらも、お客さんだと思い込んでいる哲夫は爽やかに挨拶をしてきた。 「親をからかってる!」 どこまでも、対照的な2匹である。 その頃、クレープ屋CREAMYに向かう2人の少年がいた。当然一人は俊夫であり、もう一人は優に思いを寄せる少年、如月みどりだった。 「優ちゃん、かわいい〜」 現時点では優に対する評価は、みどりの方が正しいのかも知れない。だけどまだ俊夫にとって優は、幼馴染みでそれ以上でもそれ以下でもない。みどりの優に関する熱弁を聞きながら、少々気乗りしない顔で俊夫はCREAMYに向かっていた。 「しっかり付いてないと危なくって!」 店を抜け出したポジとネガを連れた優は、そのままの姿で店を後にした。その時、優は俊夫に気が付いた。いつも優を子供扱いして、昔のようにかまってくれないあの俊夫が、ぽかんと口を開けて優を見つめていた。変身した姿とは言え俊夫が私を見ている! 「、、、可愛いい?」 思わずみどりが持つ花束を奪ってしまった俊夫だが、敢え無く奪い返され、優の方が可愛いと力説され、撃沈するのであった。 場所は変わり、某ホテルのラウンジでつかの間のティータイムを過ごしていた、パルテノンプロ社長、立花慎悟は胸のポケットの振動に気が付いた。携帯を手に、おもむろに立ち上がりロビーへでも移動しようとした時、客の動きに気が付いたウェイトレスが近付いてきた。 「ああ、君。ロイヤルミルクティーをもう1杯。」 こぼれる笑顔にキラリと光る白い歯の輝き。いつも女性にはやさしく。これが真情な立花だったが、その笑顔はいつまでも続かなかった。ラウンジからロビーに移動して電話に出た立花には思いもかけなかったアクシデントが舞い込んできたのだった。 電話はパルテノンプロの看板スター、綾瀬めぐみのマネージャー木所からで、車が渋滞に巻き込まれて、間もなく始まろうとしてえいる生放送番組に間に合わないと言うのだ。 「貴様、何年マネージャーやってる!」 そこにハンドルを握っていた綾瀬めぐみが木所の電話を奪い取った。 「慎悟ね。運転は木所さんに変わってもらうわ」 あくまで木所は無視し続けるめぐみ。 「どうだ?めぐみ。間に合いそうか?」 電話を切るとめぐみは木所の手に携帯を放り投げると、木所に言い放ち後部座席に移った。 「オンエアに間に合わなかったら、あなたのせいよ。早く飛ばして頂戴」 そこからの運転はめぐみにとって、快適なものではなかったが、車は少しづつ前進し始めたのだった。 ラウンジでの優雅な雰囲気と一変した立花が、プロデューサーと中継車の中で放送に付いて話し合っていた。万が一の為に呼べるタレントはいないだろうか?中継車を出て携帯のメモリーを必死に確認する立花は、不覚にも前方にいた人物にぶつかってしまった。 その頃、変身したままの優は周囲の視線を楽しみつつ、あちこち散策した結果大きなホテルの前まで来ていた。いつものままの優なら、とうに追い払われてしまっていたかも知れない。でも、今の優は追い払われる事もなく、むしろ待ち合わせをしているかのように見えるのだろう。何か聞かれる事もなかったのを良い事に、のんびりとホテルのオブジェを眺めていた。 「そろそろ帰りません?」 そろそろ飽きてきたネガが、しびれをきらし始めたその時、携帯を手にした男が優の肩にぶつかってしまった。 「あっ!」 立花は電話の相手も気にせずに、携帯を切ると唐突に優に声をかけてきた。 「君!僕と一緒にチャンスを掴むんだ!」 優は立花に手を引かれ、楽屋裏まで連れてこられてしまった。メイクの担当者が優の髪型などを整えていくが、優は何を言われても首を縦には振らなかった。第一、立花の強引な態度が気に入らなかった。私はそんな事したい訳じゃないのに。この力が何に役立てる事ができるか?それを考えていただけなのに、、、。 「誰でも初舞台の前には緊張するものですよ」 立花は相変わらず勝手な理屈で、他のスタッフに手を回してしまった。ますます優の機嫌は悪くなったが、その時ネガがそっと耳打ちした。 「やれよ!おもしろそうだじゃねぇか?魔法があるだろう?」 その頃、ホテルの地下駐車場には綾瀬めぐみが到着していた。着替えとメイクは済んだものの、木所の運転でかなり機嫌が悪い。 「車、弁償してもらうわよ!」 めぐみは即座に立花の携帯に連絡したがちょうどその時プールサイドの特設ステージでは放送が始まっていた。立花は電話に気が付かない。 「さて、次は歌のお客さまです!」 司会者の声がかかると優は、立花に背中を押され訳もわからないままステージに立たされてしまった。 「パルテノンプロ期待の新鋭!、、、名前は?」 優は目まぐるしく色んな名前を考えたが、浮かぶのは実家のクレープ屋だけだった。 「クリィミー、、、」 マミの名は自分でもどこから出たのかわからなかった。でも、『クリィミー』の後に続く名前はこれしかなく、定められていたかのようにスラスラと出てきた自分に驚いていた。 「それではさっそく歌っていただきましょう!ニューアイドル!クリィミーマミ!!」 司会者は勝手にマミの紹介をするとステージを降りてしまった。 「えぇ?この歌知らないわよ?」 正直、綾瀬めぐみの歌は知ってはいるものの、いきなり歌うのは無理である。客席をうめる観客の目は、ラッキーな事に新人アイドルの誕生に立ち会えて、期待のまなざしを送っている。 優はネガの言葉を思い出し、覚悟を決めた。観客に背を向けると携帯を取り出し、画面に浮かぶステッキに向かって、小さな声で呪文を唱えた。『キャノ』と。観客のざわめきや立花達スタッフが青くなっているのが見える。でも優には今、これしか方法がなかった。 「パンプルピンプル。歌をください」 ステッキは優を主人として認めてくれたのか、携帯はマイクに変わった。 中継車の中ではプロデューサーが頭を抱えて、辞表の覚悟を決めた。その時、誰もが予想しなかった事態が訪れた。最初はほんの小さな音だったが、誰も用意していないメロディーが流れてきたのだ。 ステージ上のマミは、まだ客席に背を向けたまま小さく足でリズムをとっていた。それに気が付いた観客やスタッフがマミの姿を、ジッと見つめる。 歌詞などあるはずもなかった。しかし、マミが振り返りハミングで歌いはじめると会場の雰囲気は一変した。誰もがその声に、仕種に魅せられ動けるものは誰もいなかった。例外と言えば、歌い始めた直後に録画用の機器が次々とエラーを起こしパニックを起こしたスタッフ達だろう。原因は誰もわからない。 俊夫はしょげるみどりを連れて訪れていたCDショップの片隅のテレビに夢中になっていた。 「あの子だ!おい、みどり!あの子だよ!」 ホテルのロビーでは突然水着姿で現われためぐみとホテルマンが、押し問答をしていたが、めぐみもロビーのテレビで気が付いた。自分が立つはずのステージで歌う見知らぬ少女を。魅入られたように立ち尽くす木所とホテルマンを押し退け、めぐみはプールサイドへと急いだ。 ステージ上ではマミの歌声に誰もが酔いしれていた。そして曲が終わるとマミは優雅な仕種でおじぎをしていた。中継車の方では、機器のトラブルがこれまた原因不明で直っていた。 マミが顔を上げたとたん、観客は全て立ち上がり、ネガとポジもいつの間にかこの状況を楽しみ、立花は目の前で起こった事の感動で身体の震えが止まらなかった。 しかし、マミと言うべきか、優と言うべきか、災難はまだ終わっていなかった。熱狂した観客がステージに押し掛けてきたのだ。青くなってこちらも駆け寄るスタッフ。 その時ステージに淡い不思議な色の光が立ち上った。瞬間、すべての人が凍り付きその足下をマミから戻った優が抜け出してきた。 「びっくりした〜行こうか?」 ポジとネガと合流した優は立花に舌を出しつつ、ホテルから抜け出した。この頃、ようやくプールサイドに辿り着いためぐみが大きなショックを感じたのは、言うまでもなかった。 ホテルから抜け出した優は途方に暮れていた。帰る手段がなかったのだ。あんな事になるなら、テレビなんて出るんじゃなかったと、少々後悔もしていた。 「電車ってやつで帰ればいいじゃねえか?」 優は近くの公園のベンチに座ると、いまや魔法のアイテムの一部と化した携帯を取り出し、一番に登録されている俊夫の番号にかけた。 『なに?迎えに来いだと?冗談だろ?それよりクリィミーマミ!』 立花は問題のビデオテープを、プロデューサーと見ていた。左頬が腫れている事については誰も聞かない。 「テレビ局の機器を手玉にとり、あの人込みから忽然と姿を消した『謎の美少女クリィミーマミ』…ミステリーだな、、、」 再び見つけだす為に、策を練りはじめる立花だった。 「優〜!どこにいるんだ?優〜!」 俊夫は優からのメールを見るとすぐに出かけた。優のメールの写真は場所がとても分かりやすいものだったし、何か良い事あると言う言葉にも少々期待していたのだが、肝心な優の姿が見えない。 暗闇の中ではポジとネガが俊夫の様子を伺っていたが、ちょうど良い頃合を見計らって、 「俊夫、来た?」 すでに夕暮れ時を過ぎ、薄暗くなった公園に魔法の力が輝いた。 「おい!優!本当にここなんだろうな?」 ただの幼馴染みとは言え、女の子がこんな時間に公園にいるなんて、と必死に優を捜す俊夫の耳に涼し気な声が聞こえてきた。近付いてきたそれはまぎれもないマミの姿だった。ゆっくりと歩いてくるマミ。テレビで、いや今朝見たままの神秘的な姿だった。 「こんな所で何してるの?」 マミの顔にわずかに怒りとも、嫉妬とも着かない微妙な表情が交錯したが、舞い上がってしまっている俊夫は全く気が着かない。 「そ。ごめんなさい。私行かなくっちゃ」 マミは俊夫にそう告げると、公園の闇の中に消えていった。俊夫は緊張に固まったまま、呆然と見送るしかなかったが、マミに会えた実感がわいたのか、一人ガッツポーズを決めるのだった。 木陰で優に戻り、二つに別れたコンパクトを腰にぶら下げ、携帯はポケットの押し込みながら、優は不機嫌顔だった。 「あいつ、全然分かってないよ!」 優が俊夫に文句を言い、公園のベンチに2匹と共に座った時、俊夫はやっと優の姿を見つけた。 「優〜!何だそんな所にいたのか!捜したんだぞ」 公園から駅までの道を二人で歩きながら、俊夫の口から出る事はクリィミーマミの事だけだった。少し不機嫌になりつつ、でも俊夫の事をどうしても無視できない優は、それを聞くしかなく、もう一人の自分に嫉妬している事に少しづつだが気が着き始めていた。 「あ!そうだ!お前もクリィミーマミ見たって言ったよな?ね、彼女どう思う?」 (なにさ!マミマミって。あれは私なんだからね!) 優はどんどん不機嫌になるが、舞い上がってしまっている俊夫はそれに気が着かない。小さい頃からいつも一緒で、優の事は誰よりも分かってくれていたのに、これは初めての事だった。 「んふふ〜それでマミさん、なんて言ったと思う?」 優の忍耐力もここまでだった。 「あたし、不機嫌になっちゃったもん!」 わざわざ迎えに来てくれた俊夫には当然感謝もしている。だけど、、、。 |