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『優!ちょっとお店の手伝いしてちょうだい!帰ってるんでしょ?優?』 森沢優は目の端に何か光るものを捕らえ、窓に駆け寄った。 「なにかな?わぁっ!」 光は家の遥か上を一瞬で通り過ぎた。 「うわ〜〜〜!!」 優は一度机に駆け寄ると携帯電話を手に取り、写真モードを起動させた。 「?遠すぎて写らないのかな、、、」 でも確かに光は一定の方向に向かって、今も輝き続けていた。 クレープ屋CREAMYの前では少年が二人。一人は本人はまだ腐れ縁としか思っていない幼なじみの優に会うだけ。片方はその優に渡したい花束を抱えてもじもじとしていた。 優は玄関でいつものスニーカーを手早く履くと、玄関の扉を開けて一気に開けた。 「と、俊夫〜!?」 今の優には幼馴染みを越えた感情をまだ淡いモノながら持っている俊夫よりも、申し訳ないが今はあの光の向かう方向の方が気になっていた。 「そうそう、こいつ如月みどりって言うんだけどさ、、、」 その時、リビングのドアからなつめが顔を出した。 「優、どこ行っちゃったの?」 優は玄関先に立て掛けてあった、先日父の哲夫が買ってきたばかりのキックボードを抱えて走り出し、一気に店の前の階段を下りたところで足をかけて一気に滑り出して行った。 「あっ!こら〜!待って〜!俊夫君捕まえて!」 この声に押されて俊夫と、優を追い掛ける口実が出来て満面の笑みの俊夫の友人のみどりも走り出した。 「まあ遊び盛りだ仕方あるまい。」 そんな会話が交わされていたとも知らず、優は今はそれ所ではない。坂道で一気に加速する。それでも持ち前の運動神経で目の端に写る光に確実に近付いていった。 「わっ!UFOだ♪」 追い掛けてくる音があまりにも大きくなってきて、優はさすがに振り向いた。 「な、ななんで!?」 ようやくパトカーを振り切ると、気がつくと1台のヘリコプターもがなぜか優と俊夫を追っている。でも、そのヘリはどう言う訳か、不安定な操縦で追い付きそうもないが、おかげで俊夫も振り切る事が出来たようだ。 やっと光に追い付いた場所はセントラル競馬場だった。優は勝手知ったる秘密の穴から競馬場の中に入っていった。平日でレースも何もない競馬場は人気もなく閑散としていて、少し無気味な様でもあったが、ようやく謎の光の全貌を捕らえた。その優の目に今はっきりと見えたものは、空に浮かぶ光る箱舟だった。 「わ〜!船だ〜」 キックボードを近くの柵に立て掛け、しばらく箱舟に見とれた後、優は思い出したように携帯電話を取り出すと、箱舟にレンズを向けた。が、しかし相変わらず携帯の画面には何も写らない。優はしばらく光る箱舟と画面を見直して呟いた。 「どうして、、、私絶対に見てるのに。ここに大きな船があるのに、、、。あれ?俊夫も気がついてなかった?」 携帯での撮影を諦めた優はポケットに携帯をしまうと、改めて船を見つめた。 「わ〜綺麗だなぁ、、、あ、降りてくる!、、、きゃぁっ!」 急に優の周囲の重力が変わった。ふいに優の身体事、いや近くにあるモノががたがたと揺れている。 「えぇ〜!?な、なにぃ?地震だぁ〜!?」 優を捜して競馬場内に入ってきた俊夫にもその揺れは感じられ、俊夫は近くの柵にしがみついたが、同じ頃優は宙に浮かぶ感覚を純粋に楽しんでいた。 その頃、俊夫の近くの草むらでは4つの神秘的な光をたたえた瞳が、地球上の動物『ネコ』にコンタクトを取ろうとして敢え無く失敗していた。 「俺はもうごめんだね。早く船に戻ろうよ」 「優〜優〜!」 後ろで優を捜す俊夫の声が聞こえるが、俊夫が2匹に気がつくはずもなかった。 「おーい!船の人〜出ておいでよ!お話しようよ〜」 瞬間、2匹の瞳が輝くと優の身体は再び宙に浮き上がり、箱舟の中に消えて行った。 気がつくと優は船の中にどこか懐かしいような、だけどわくわくするような不思議な風景を見ていた。優はいつの間にか剣を持ち戦い、ドラゴンの深紅のルビーのような血を受け取った。 「今のなに?」 優は2匹に即されるまま、船の中を進んで行った。身体は羽のように軽く、重力など全く感じていないようだった。 「こんにちは!地球人。フェザースターの船にようこそ!君にお礼をしなくちゃ」 優の足下からふわりと浮き上がったのは、この船の中に入ってからも会った事のない、でも強い存在感のある、小さなグレーの妖精ピノピノだった。 「お礼?あたし、何にもしてないよ?」 ピノピノの声は少しづつ遠ざかって行った。 「優〜!」 地上では優のキックボードだけを見つけた俊夫が、暗くなってきた競馬場を優を捜して一人歩いていた。その時、再び地面が揺れ、激しいフラッシュのような光が点滅した。 「うわ〜〜っ!」 気がつくと、いつの間にか俊夫の背後には優の姿があった。 「うわぁ〜あ!優!?」 しかし、俊夫の呼び掛けに優は反応する事なく、いつの間にかコンパクトと携帯電話を握りしめたまま、すでに夕暮れ時を過ぎ、暗くなっている空の一角を眺めていた。 『お礼に君に力をあげる。君のその機械を使わせてもらうよ。1年間、その力を君は自由に使う事ができる。でも、皆には内緒だよ。いいね?』 優の心にはピノピノの言葉が聞こえていた。それは誰でも知っていると言うフェザースターの記憶に直接語りかけるような、そんな暖かい声だった。 「優!」 何度目かに声をかけると、優はやっと反応したがその瞳はまだ空高く、遠くを見つめていた。 「見て。船が行く」 『2匹は君の相談役に置いて行く。1年後、与えた力が消える日にまた会おう』 こうしてピノピノは優の心にだけメッセージを残し、箱舟と共に地球を後にして行った。 「バイバ〜イ!」 取りあえずコンパクトだけはポケットにしまい、無邪気に箱舟に手を振る優だったが、そのすぐ後ろ。フードの中では小さな抵抗があった事は、言う間でもない。 その後、俊夫に送られて帰宅した優にはなつめのお仕置きや、見た事もない不思議なネコを怪しまれたりもしたが、なんとか家においても良いと言うお許しも出た。 優は部屋に戻ると、改めてコンパクトと携帯を並べて見つめた。パッと見の携帯の外見は優愛用の可愛いピンクのものと、変わりはなかった。 そのうちの一つを少し怪し気に見つつそっと押してみる。薄い黄色の部分が淡く光るのと同時にそこから小さなステッキが飛び出し、優の手に定められていたかのように治まった。でも、まだ優にはこれが何をするものなのか全くわからない。コンパクトの画面にも、また携帯の画面にも見なれない文字が並んでいた。 「わかんないなぁ、、、これなに?」 まだ何も要領を得ない優に、ネガは胸を張って答えた。 「『キャノ』?きゃぁ!!」 優のおうむ返しのような言葉に反応したのか、ステッキは手のひらサイズからバトントワリングのような大きさのステッキに変わった。しかし、優の顔にはまだまだ疑問が残っているようだった。 「ねえ?どうやって使うの?これ?」 ポジとネガもなぜか不安なようだった。 「読めるの?」 優とポジの2人の言葉の攻撃に、ネガは優の手からコンパクトと携帯を奪い取ると画面を見ながら次々と新しい文字を表示させて行く。 「ねえ?私の携帯、どうなっちゃったの?」 なれない優に、ポジは優しく声をかけるがネガは相変わらず、コンパクトと携帯の画面を交互に見つつ、ボタンを押していく。 「あ!これなら読める!」 ポジに図星を刺され悔しそうなネガに、優はお願いした。 「読んで?」 優は呪文の言葉をもう一度ネガに復唱してもらうと、ステッキをかまえて初めてその言葉を口にした。 「パンプルピンプルパムポップン!」 辺にただようのは魔法の光ではなく、静寂のみだった。 「これじゃあ、1年立っちゃうよ!」 ポジもネガも初めての呪文詠唱に、それらしい言葉をかけてくる。 「ん〜じゃあ、、、」 優はすくっと立ち上がると、ステッキを胸の前で交差させ、佇まいを改めた。 まるで優雅なバトントワリングのように優はステッキを回転させ、再び呪文の詠唱を始めた。 「パンプルピンプルパムポップン!」 部屋の中を暖かな魔法の光が満ちあふれ、少しづつ優の姿を変えて行った。 「鏡をのぞいてごらん」 魔法の力を手にして、その日のうちにたった一つとは言え使いこなした優に、もうネガの言葉にも棘は一つもなかった。その優しい言葉に即されるように、優は恐る恐る鏡に近付いた。そっと覗いたそこに写し出されたものは、、、。 「わっ!これが私!?」 窓辺から満点の星空を眺めながら、今日の出来事、これからの自分。色んな事に思いを馳せる優だった。でも、すべてはこれから始まるのである。 |